過去・現在・未来
聖剣無くとも立ち上がった果敢なる有志達は騎士団を結成したが、
加護無き騎士団は如何せん脆い物で、敢え無く全滅した。
やはり英雄は世にただ一人であった。
恨む事無かれ。
暗黙の了解、世の常である。
英雄は独り戦っていた。
世界中の人々を守る為、山の如く巨大な悪の魔王を打ち倒すべく、
世界中にその戦いを中継され、一身に注目を浴びながら、
むしろそれは「見世物」と言い換えても良い状態で戦っていた。
魔王がデコピンをする。
英雄の左腕が、肉塊となって吹き飛ぶ。
身体の方はと言うと、衝撃波に耐え切れず木の葉の様に舞い飛んで行く。
血の螺旋がワンテンポ遅れて崩れ落ちる。
それを見た糞餓鬼共が「うっわダッセー!」とゲラゲラ笑う。
それを見た酔っ払い親父が「そんなんで世界が救えるかー?」と宣う。
それを見たんだろうか精神病の女がビルから飛び降りて勝手に死んだ。
英雄は立ち上がる。
人類最後の良心から優しい励ましの言葉を受けつつ、
(人類の未来を貴方に託します)(頼むぜ、英雄!)(任せたぞ、英雄!)
蘇生の魔法を絶え間無く受けつつ、強化魔法を受けつつ、
狂化呪術も受けつつ、英雄として完璧なスペックで立ち上がる。
何というか小人でも不死身かつこれだけのドーピング有りとなれば
不死身では無い巨人の魔王にはどうも勝てる様で、
魔王の残HPを99.999999979%削る辺りまでゴミダメージを積み重ねて来た。
必然の勝利まであと少し、である。
「感動の最終決戦」中継の鏡水晶には早くもエンディングテーマが流れ初めている。
何だか24時間TVの終わり様だと思いながら、僕はそれを眺めていた。
控えめなスタッフロールがキャスト紹介部分に入る。
英 雄 : あ な た
その意味に気付く前に、足元に過去へのタイムスリップゲートが開く。
お分かりだろうか?
これで魔王の勝利である。